青森地方裁判所 昭和37年(ワ)219号 判決 1963年3月19日
原告 国
被告 鈴木農機株式会社
主文
被告は、原告に対し、金四四三、九六六円および内金四三二、〇四〇円に対する昭和三五年一月一日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は、被告の負担とする。
この判決は、原告において金一〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、仮に執行することができる。
事実および理由
原告指定代理人は、主文第一、二項同旨の判決および仮執行の宣言を求め、請求の原因として次のとおり述べた。
一、被告会社は、農機具等の製造、修理および販売等を営むものである。
二、訴外種市隆三は、被告会社に勤務し、同会社のために農機具等の販売、修理および自動車運転等の業務に従事中のところ、昭和三四年五月九日午前一〇時ごろ、農機具修理のために普通四輪乗用自動車(青三す〇四二〇号)を運転し、青森市鶴ヶ坂字川合地内の国道上を鯵ヶ沢方面に向かつて進行中、同所八五番地倉内芳郎方先路上において、同車を訴外有馬富作に衝突させ、よつて同人に対し頭蓋内出血の重傷を与え、翌一〇日同人をして死亡するに至らせた。
三、右死傷は、種市隆三が被告会社において同会社取締役訴外秋田勇逸から借用中の右乗用車を運行していた際に生じたものであるから、被告会社は、有馬富作に対して自動車損害賠償保障法第二条第三項、第三条に基く損害賠償責任を負うものである。
四、右事故は、有馬富作が青森県津軽新城郵便局事務職員として郵便集配業務に従事中に発生したところから、原告は、これを国家公務員災害補償法所定の公務災害と認定し、昭和三四年七月九日同法第一〇条、第一五条および第一八条により、療養補償費金一、七〇〇円、遺族補償費金六八九、〇〇〇円および葬祭補償費金四一、三四〇円、合計金七三二、〇四〇円を有馬富作の配偶者訴外有馬ふさに支払つた。
五、ところで、有馬富作の右事故に基く損害額は、次のとおりである。
1 得べかりし俸給等による収入についての損害
(一) 有馬富作の余命年数
同人は、大正二年四月一五日に出生し、右死亡当時満四六歳であつたところ、同年齢人の平均余命年数は、厚生省統計調査部作成第一〇回生命表によれば、二五、六年であるから、有馬富作の余命年数もまた二五、六年と解するのが相当である。
(二) 同人の得べかりし俸給等による収入
(1) (同人の勤続期間)郵政省における郵政事業職員勧奨退職年齢は、毎年三月三一日現在満五八歳の者を対象として勧奨がなされ、退職の時期を同省における人事移動期である六月末日としているので、有馬富作については、同人が満五九歳となる年次(昭和四七年)の六月末日(この時まで同人が存命していることは、前記により明かである。)が勧奨退職時となる。
(2) (収入)これは、別紙第一明細表記載のとおり、合計金四、六九三、八四〇円であるが、同表について説明を加えると、
イ、これは、前記事故時における郵政事業職員給与準則第三条第一号(三)(外務職群級別俸級表)に基き、かつ、定時昇給を考慮して算出したもので、
ロ、第一年目(昭和三四年)の額には、同人死亡の翌日である同年五月一一日から同月三一日までの分を日割計算(ただし、右期間中同人は三日間の休日をとることになつていたので、((31-10)-3)/31=18/31の計算方法によつた。)によつて算出した額を含み、
ハ、第一四年目の額は、同人の前記退職時である昭和四七年六月末日までのものである。
(三) 同人の生活費
同人の右死亡時における扶養家族数は、左記のごとく七人(従つて、同人を含めると家族数は計八人)であるが、その子が満二〇歳に達したときは、これを非扶養家族と解して算出するのが相当なので、有馬富作の右退職時までの総生活費は、各年度における同人の得べかりし収入を当該年度における扶養家族数で除して得た金額の合計額であり、それは、別紙第二明細表記載のごとく金八一〇、四六一円となる。
記
妻 有馬ふさ 大正 五年 九月二二日生 四二歳
長女 〃 浜子 昭和一七年 九月 三日生 一七〃
長男 〃 弘 〃 二一年 二月 五日生 一三〃
二男 〃 修次 〃 二三年 八月一七日生 一一〃
二女 〃とし子 〃 二六年 六月 五日生 八〃
三女 〃とき子 〃 二八年 一一月一二日生 六〃
四女 〃 和子 〃 三一年 一一月 四日生 三〃
(本人 〃 富作 大正 二年 四月一五日生 四六〃)
(四) 純利益
前記退職時までに同人が得るであろうところの純利益は、前記の得べかりし収入から右の生活費を減ずる方式で算出すべく、それは、次式のごとく金三、八八三、三七九円となる。
4,693,840-810,461=3,883,379
(五) 中間利息の控除
ところで、右の純利益は、本来同人が将来取得すべきものであり、これを右死亡時に一時に請求するのであるから、その間の中間利息を控除するため、いわゆるホフマン式計算法を用い民事法定利率によつて計算すれば、右死亡時に一時に請求しうべき金額は、別紙第三明細表記載のごとく金二、八六〇、八〇五円となる。
2 得べかりし退職手当金についての損害
(一) 同人の前記退職時における得べかりし退職手当金は、同人死亡時の国家公務員退職手当法第五条によつて計算すると金九五五、七一〇円であるが、これも右死亡時に請求するのであるから、前同様中間利息を控除すると、次式のごとく金五七六、七八八円となる。
955,710/(1+13,139×0.05)=576,788
(右の13,139は、昭和三四年五月一一日から同四七年六月三〇日までの満年数である。)
(二) しかるに、同人は、前記死亡時までの退職手当金として、同法同条によりすでに金一五六、〇〇〇円の支給を受けているから、これを右(一)の金額から控除することを要し、その結果右死亡時に一時に請求し得べき退職手当金額は、金四二〇、七八八円となる。
六、よつて、有馬富作がその死亡時において被告会社に対し一時に請求し得べき損害金の額は、右の第五項の1における金二、八六〇、八〇五円および同項の2における金四二〇、七八八円の合計金三、二八一、五九三円であり、この損害賠償請求権は、同人の死亡により前記の有馬ふさほか六名が相続によつてこれを取得した。
そして、原告は、前記のとおり、昭和三四年七月九日右有馬ふさに対し、災害補償費として金七三二、〇四〇円(この金額が同人の右による法定相続分の金額、すなわち金一、〇九三、八六四円余を下廻ることは明かである。)を給付したのであるから、国家公務員災害補償法第六条第一項の規定により、右給付価額の限度において、同人が被告に対して有する損害賠償請求権を取得するに至つたが、同三五年一〇月一七日右の内金三〇〇、〇〇〇円が原告に納入されたので、その残額金四三二、〇四〇円につき損害賠償請求権を有するものである。
七、よつて、原告は、被告に対し、右損害賠償金四三二、〇四〇円およびこれに対する右補償給付後であること明かな昭和三五年一月一日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払に加え、前記納付済みの内金三〇〇、〇〇〇円に対する右昭和三五年一月一日以降右納付日の同年一〇月一七日まで右同割合による遅延損害金一一、九二六円の支払をそれぞれ求めるため、本訴請求に及ぶ。
被告は、適式の呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しないので、民事訴訟法第一四〇条第三項により、原告の主張事実を自白したものとみなされる。
右事実によれば、原告の本訴請求は、理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき同法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 野村喜芳 佐藤邦夫 小林啓二)
別紙
第一明細表(俸給等による収入)<省略>
第二明細表(生活費)
1年目(8人) 200,781円÷8= 25,097円
2 〃(8人) 286,517円÷8= 35,814円
3 〃(8人) 297,507円÷8= 37,188円
4 〃(7人) 313,847円÷7= 44,835円
5 〃(7人) 325,042円÷7= 46,434円
6 〃(7人) 337,502円÷7= 48,214円
7 〃(7人) 351,152円÷7= 50,164円
8 〃(6人) 365,440円÷6= 60,906円
9 〃(6人) 378,760円÷6= 63,126円
10 〃(5人) 392,668円÷5= 78,533円
11 〃(5人) 404,443円÷5= 80,888円
12 〃(5人) 415,632円÷5= 83,126円
13 〃(4人) 421,526円÷4=105,381円
14年目(4人) 203,023円÷4= 50,755円
計 810,461円
第三明細表
X=x1+x2……xn+……x14
Xn=死亡時から第n年目における俸給等による収入額/1+(死亡時から第n年目までの年数)×0.05
(X………死亡時に一時に請求しうべき俸給等による収入について全損害額
Xn……死亡時に一時に請求しうべき俸給等による収入についての死亡後第n年目)
の損害額
x11年目
175,684円÷1.032=170,236円
x22 〃
250,703円÷1.1 =227,911円
x33 〃
260,319円÷1.15 =226,364円
x44 〃
269,012円÷1.2 =224,176円
x55 〃
278,608円÷1.25 =222,886円
x66 〃
289,288円÷1.3 =222,529円
x77 〃
300,988円÷1.35 =222,954円
x88 〃
304,534円÷1.4 =217,524円
x99 〃
315,634円÷1.45 =217,678円
x1010 〃
314,135円÷1.5 =209,423円
x1111 〃
323,555円÷1.55 =208,745円
x1212 〃
332,506円÷1.6 =207,816円
x1313 〃
316,145円÷1.65 =191,603円
x1414 〃
152,268円÷1.674= 90,960円
計 2,860,805円